リテールテックを活用して店舗体験を最適化する

テクノロジーで消費者の多様化に対応する

小売業界で先端テクノロジーを活用する「リテールテック」。消費者の利便性を高めるキャッシュレス決済や店舗側の人件費を削減する無人店舗はその代表例です。

 

店舗体験設計の観点では、リテールテックによって顧客データの取得、活用が容易になる点が見逃せません。顧客IDに過去の購入情報などのデータを紐づけて管理できるため、例えば、顧客が実店舗やECサイトで商品を購入したあともチャットアプリで接点を維持したり、ECサイトでの購入履歴を参照してリアル店舗での接客を個別最適化したりすることが可能に。

こうした顧客体験の改善により、ロイヤリティの向上が期待できます。さらに接客の再現性向上によって店舗側の業務を効率化できたり、収集したデータをもとにより費用対効果の高いマーケティング施策を展開したりできるようになるのも、リテールテックの重要な導入メリットだといえます。

 

小売業界の人材が限られる中、ますます多様化する消費者のニーズに的確に対応するカギになるのが、リテールテックなのです。

 

店舗体験の流れとリテールテックの活用シーン

「リテールテック」と一口にいっても、店舗体験の中で活用できるシーンは実に多岐にわたります。ここでは顧客の店舗体験の流れを3つに分け、それぞれのシーンで具体的にどのようにリテールテックが採用されているのかを、先進事例とともにご紹介しましょう。

 

広大な店内での買い物をアプリでナビゲート:Target

入店から購買前までの店舗体験を向上させている事例で注目したいのは、アメリカの大手ディスカウントスーパーTargetの事例です。同スーパーでは、GPSを使用できない屋内で位置を測定する「屋内位置測位技術」を活用し、広大な店内での買い物をサポートするサービスを提供しています。

 (参考:紹介Webサイト

技術的には、Bluetooth搭載のIoTシ―リングライトが、買い物客のスマートフォンにインストールされたTargetアプリを通じて位置を特定し、アプリ画面に店内のインタラクティブマップを表示させるというもの。買い物客が商品を検索すると、その商品の場所までアプリのマップがナビゲートしてくれたり参考、周囲のセール情報をお知らせしてくれたりする仕組みになっています。

 

 

買い物中の顧客のストレスを軽減させるとともに、購買前に積極的にアプローチすることで販売機会の喪失を防いでいる好事例です。

 

レジに並ばず買い物できる:Just Walk Out(Amazon) 

購買シーンの体験を向上させているケースでは、Amazonの直営ストアAmazon Goで採用されている会計レス技術「Just Walk Out」が目を引きます。

(参考:Just Walk Out Webサイト

この「Just Walk Out」採用店舗では、まず買い物客が入店する際、スマートフォンアプリや手のひら認証でAmazonのアカウントを特定。店内ではカメラやセンサーが買い物客の行動をトラッキングし、商品棚から商品を手に取ったり、商品を棚に戻したりすると、システム上の仮想カートに反映されます。最終的に、買い物客は購入したい商品をレジに通すことなくそのまま退店し、Amazonアカウントを通じて代金を支払う仕組みです。

 

当初はAmazon Goを始めとするコンビニ規模の店舗のみでの展開でしたが、2021年には同社傘下の高級スーパー「Whole Foods」など大規模な店舗でも活用されるようになりました。

 

顧客にとってスムーズな購入体験が可能になるのはもちろん、店舗側もレジスタッフの人員を削減したり、商品棚のデジタル管理によって在庫を最適化したりできるなど、導入メリットを感じられるテクノロジーです。

 

商品を希望通りに自宅へ配送:Walmart InHome / DoubleDash(DoorDash)

購入した商品の配送時にも、リテールテックが活用されています。

 

 

アメリカの大手スーパーWalmartの事例では、ネットスーパーで商品を注文した際、Walmartのスタッフが店舗で商品を集めて買い物客の自宅まで配送し、なんと冷蔵庫への収納まで行ってくれる「InHome」オプションを提供しています。Walmartの配達スタッフはスマートロックのワンタイム解錠機能で入室して作業し、買い物客はスタッフが装着したウェアラブルカメラの映像を通じてその様子をチェック。テクノロジーを駆使してセキュリティ面をクリアしています。

(参考:InHome Webサイト

別の事例では、フードデリバリーサービスDoorDashの新オプション「DoubleDash」がユニークです。こちらは、フードの注文時に対象の近隣店舗での買い物を追加で依頼して、同時に配送してもらえるサービス。ユーザーの利便性が向上することで、飲食店の注文数増加が期待できます。

(参考:DoubleDash紹介サイト) 

いずれの事例でも、顧客の時短ニーズに応えることで、サービスの利用増や新規顧客獲得を図っているのがポイントだといえます。

 

新たなフェーズへ向かう店舗体験のデータ活用

以上のようにリテールテックを活用する際には、データに基づいて店舗体験を客観的に評価、改善し、施策のPDCAを回すことも重要です。

 

 

一方で、データ活用にあたっての課題も見え始めています。そのひとつが、顧客IDに紐づけたデータ収集方法の限界です。例えば、ポップアップショップなど臨時出店の店舗では顧客IDの取得が困難ですし、消費者側の“ID登録疲れ”や、個人情報を開示することへの抵抗感も無視できません。

 

こうした課題に対して、これからは顧客のIDを取得することなく、分析しうるデータを収集する技術も求められるでしょう。すでにスイスのスタートアップAdvertimaでは、画像認識技術によって顧客の属性に合わせた広告を表示するサービスを展開。生体認証などの個人認証に頼らず広告掲載の個別最適化を図ったり、データを収集・分析して店舗体験設計に活かしたりする技術へと舵を切っているのです。

 (参考:Advertima Webサイト

技術発展からデータ活用の在り方まで、今後もリテールテックの最新動向に注目していきたいところです。

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